和歌山弁護士会
さらに,Jとの勉強会は,平成9年9月17日以降に行われたという のであるから,うつ病発症後に行われた業務であることになり,そも そも亡Aのうつ病発症との関連が認められない。
また,原告の亡Aの休日出勤に関する供述は,およそ信用できない し,また,自宅への持ち帰り残業についても,亡Aが業務を行ってい たとする部屋には,ワープロ専用機のほかにパソコンもあり,パソコ ンに接続するプリンターを平成9年10月21日に買い替え,買い替 えた後のプリンターでも印刷を行っていたことからすると,パソコン を用いた作業,すなわち業務とは関係のない作業も行っていたことは 明らかである。
前述のとおり,原告は,労働時間が増大した時期が平成9年9月中 旬以降であるとして,その繁忙さを主張するが,平成9年9月中旬以 降というのであれば,うつ病発症後に行った業務であることになるか ら,そもそも亡Aのうつ病発症との関連が認められない。
f 上記において検討したところによれば,亡Aの担当業務を見ても, 全体の労働時間を見ても,さらに,職場内のエピソードをもとにして も,亡Aの業務による心理的負担は,さほどの精神的,肉体的疲労を 伴うものでないということができる。
原告は,自宅における作業,特に自殺直前の平成9年9月ないし1 1月における休日自宅労働を含む長時間に及ぶ労働や自殺前1か月の 睡眠時間もほとんど取れないような状態が,それだけで亡Aのうつ病 発症及び増悪の要因になったと主張するが,これはうつ病発症後に行 った業務である以上,その心理的負荷の強度を検討するまでもなく, そもそも亡Aのうつ病発症との関連が認められない。
なお,念のため,上記の自宅における作業について検討するに,仮 に原告の主張するとおりの状況であったとしても,亡Aが長時間にわ たり休日等において自宅で作業をしていたというわりに,その成果物 が認められないこと,し損じた紙が山のように出たこと,亡Aはやれ ばやるほど焦った様子であったこと等を総合すれば,長時間にわたる 休日労働は,精神症状である不安・焦燥感が現れ,仕事の能率が低下 していたが故の結果であるということができ,うつ病の発症ないし増 悪の原因となった休日自宅労働とは認められない。
(ウ) その他の業務外の要因について 亡Aの業務上の出来事にかかる心理的負荷の程度は,上記のとおりで あり,精神障害を発症させる程度に危険,過重でないと認められるため, そもそも業務外の出来事及び個体側要因について検討を要しないが,以 下,念のため,業務以外の出来事及び個体側要因について検討する。
a 業務以外の心理的負荷 (a) 株取引による多額の損失 亡Aは,唯一ともいうべき趣味として株取引を行っていたもので, 株取引の資金を借り入れるための担保として自宅マンション居室に 極度額550万円の根抵当権を設定し,おおむね300万円ないし 400万円の借り越しをしながら株取引を行っていた。
亡Aの株取引による損益状況は,平成6年6月から平成7年末ま での間では,収支計約107万円の損失にとどまったにもかかわら ず,平成8年1月から平成9年3月末までの間では,収支計約90 7万円という甚大な損失を被っている上,その後平成9年4月から 同年11月までの間には約81万円の利益を上げたにすぎず,到底 資産状態を回復するには至っていない。
しかも,上記の多額の損失 は,平成8年12月19日から平成9年3月12日までの約3か月 間で,立て続けに,わずか3回の取引によって被ったものである上, その損失額は漸次増加し,上記3月12日の取引では1回で約44 9万円もの損失を被っているのである。