和歌山弁護士会

他方,亡Aは,原告に対し,趣味の範囲で株取引を行っているこ ととし,その収支結果について原告には特に告げていなかったが, 現実には,平成9年3月12日に約449万円という多額の損失を 被り,その後余り利益が生じていないという深刻な状況に陥ったも ので,これに,亡Aの平成9年の手取り年収が約591万円であっ たこと,亡Aが金銭面に細かい性格傾向を有していたこと,亡Aが 株取引で多額の損失を被ったことについて原告や職場の同僚にも打 ち明けず,その悩みを一人で抱え込んでいたことがうかがわれるこ とからすれば,これにより亡Aが受けた心理的負荷要因は極めて大 きいものということができる。
これに対し,原告は,株取引は当然損失があるし,趣味である, 亡Aの死亡時に残された債務残高は365万円8174円にすぎな い,亡Aと原告とFの合計年収に比較すれば多額とはいえない,亡 Aは遺産相続で受け取った1000万円を株取引の資金に充ててき た等の理由を挙げて,亡Aにとって,うつ病を発症させるほどの多 額の損失とはいえないと主張する。
しかしながら,亡Aの死亡時の資産が,約447万円相当の現金 及び株と,死亡時において,約369万円の借入金を担保するため の根抵当権が設定された自宅マンションだけとなるところ,これは, 株取引以外に趣味を持たず,夫婦共働きで長男も独立し,自身も日 研化学から相当額の給与収入を得,享年52歳であった者としては, 極めて僅少な資産である。
以上の亡Aの資産状況からすれば,約3 か月間で約907万円の損失を被ったことにより,亡Aが深刻な精 神的負担を被ったことは明らかである。
また,相続で受け取ったと される1000万円についても,資金の借入れをしてまで株取引を している状況に鑑みれば,相当以前に費消したと考えられる。
(b) 家庭環境について 原告は,遅くとも平成9年5,6月ころには,亡Aから不眠を打 ち明けられ,自宅にいる間に,それまで取らなかったような不自然 な言動をするようになったという亡Aの異変に気付いたものの,原 告の都合から寝室を別にして,亡Aの夜間の言動が分からないよう にするとの対応を取り,同年9,10月ころには,一緒に食事をし なくなり,何を食べているか分からず,布団も普段から敷きっぱな しになるなど亡Aの生活の乱れが顕著に現れていたにもかかわらず, 亡Aに対し,いつも自分のことは自分で管理するように言うなどし て突き放す冷淡な態度を取った。
さらに,同年10,11月ころに は,亡Aが原告に対し日ごろから繰り返し自殺願望があることをほ のめかしたり,いつも包丁を持っているなどという異常な言動をす るようになったにもかかわらず,特段の注意を払わずに聞き流し, 同年11月22日には,亡Aの発言から同人がストレスのために胃 を病んでいると思ったものの,自己の仕事上の都合を優先させ,2, 3日入院は待ってほしいと思い,まだ大丈夫でいてねなどとなおざ りにして亡Aの悩みに取り合わず,ついに同月25日,現実に亡A が台所の包丁を持って外出していることを示す具体的な状況を認め ても,何の対応もせず,亡Aの帰宅すら確認しないまま就寝したと いうのである。
そして,上記の亡Aの言動からは,同人の精神状態が刻々と悪化 し,情緒不安定になっていることが顕著にうかがわれるのに,原告 は,亡Aがうつ病その他の精神障害を生じた状態にあったことに全 く気がつかなかったというのであって,原告が亡Aに対し格別の注 意を払っていなかったことは明らかである。
そのうえ,原告は,徹夜明けで疲れた様子にみえた亡Aから,駅 までの送迎を断られたにもかかわらず,無理やり頼み込んで結局迎 えに来させたり,平成8年4月ころから平成9年11月までの間, 亡Aに対し原告の職場における人間関係等に関する不平不満を一方 的に聞かせたり,愚痴をこぼし続けたりしたもので,こうしたやり とりからは,原告が,亡Aの精神状態,病状,健康状態に配慮せず, 自己の職場等の都合を優先させ,亡Aのいやがる行為を無理強いし, 入院の必要が生じているのにこれを我慢させ,亡Aが疲労していた のにもかかわらず,職場内の人間関係等につき愚痴をこぼし続けて いたというのであるから,これらの原告の対応が,亡Aに対し業務 外の心理的負荷を与えていたことが容易に認められる。
その上,子煩悩であった亡Aにとって,長女Gが平成8年終わり ころから平成9年初めころにかけ,長男Fが同年4月ころから,そ れぞれ外泊しがちになり,相次いで自分のもとを離れていったこと は相当な空虚感をもたらしたものと推認でき,業務外の心理的負荷 となったことも否定できない。

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